SR
社労士オフィス さの
社会保険労務士事務所
お知らせ一覧に戻る
コラム

AIと介護 ~ 介護現場のAI・見守りセンサー導入効果と実態

ChatGPT3.5の登場(2022年11月)からもう少しで4年。

AIの進化は本当に早いです。GPT3.5の時代と今のGPT5.6(2026年7月)では、レベルが違います。

ただ、まだ介護現場でAIやIT、IoTを活用している事例は決して多くはないです。 今日はそんなAIと、現状の介護や医療の現場での活用や実態について話をしたいと思います。

「AI導入」の中身は、ロボットではなかった

まず実態から。

令和6年度の介護労働実態調査(8,978事業所)によると、利用者情報を入力・保存するパソコンの介護ソフトを日常的に使う事業所は75.4%。マット型などのベッドセンサーは、施設系(入所型)で70.1%に達しています[1]。

一方、介護ロボットの利用率はどの種類も10%未満。最も高い入浴支援ロボットでも8.4%だ[1]。

つまり、介護現場にすでに入っているのはロボットではなく、記録ソフトとセンサーなのです。

ニュースが描く「AIが介護に来る」のイメージと、実態はだいぶ違う。

背景の数字も一つだけ。介護職員は2022年度で約215万人。国の計画では2040年度に約272万人が必要とされる[2]。毎年3万人規模で増やし続ける計算で、正直、処遇改善だけで埋まる差ではないと思う。

記事の画像

現場で起きていること

事例を三つ。

記録。「ハナスト」という音声入力アプリは、スマホをポケットに入れたまま利用者名とケア内容を話すだけで、AIが記録カードにしてくれる[3]。スタッフ1人あたり1日40分の削減という数字がありますが、これは開発企業自身のユーザー調査だという限定は添えておきたい[3]。

ただ、厚労省の効果測定事業のヒアリングにも「記録業務は業務時間の2〜3割を占めるが、大きく削減され直接介護に時間を割けた」という現場の声が残っている[4]。

見守り。マットレスの下のセンサーで呼吸・心拍・離床を把握する「眠りSCAN」を全60床に入れた特養では、2時間おきに全室を見回るルールを、通知があったときに巡視する運用に切り替えた。夜間の転倒・転落事故の発生率は、同じ法人の未導入施設より9.1%低かったそうです[5]。

法人内の比較で、厳密な対照試験ではない。それでも、現場発の数字として意味はあると思う。

からだの介助まわり。超音波で膀胱のたまり具合を測り、排尿タイミングを事前に知らせる「DFree」は、2022年から介護保険の特定福祉用具販売の対象になった[6][7]。移乗を支えるロボット「Hug」はシリーズ累計約5,500台が現場に出ている[8]。

厚労省の実証(特養10施設)では、見守り機器の全床導入で夜勤職員1人が対応できる利用者数は約1.3倍という試算が出た。認知症グループホームでは、夜勤の休憩・仮眠が平均63分から77分に増えている[4]。

どちらも実証条件下の数字ではあるけれど、方向として悪くない。

現場の実感はどうか。「昼間の業務負担の軽減」に効果を感じている事業所は49.4%、夜間は44.6%[1]。半数近くが効いていると答え、残りはまだ実感がない。今はそのくらいの温度です。

制度も追いかけている。2018年度の報酬改定で、見守り機器の導入が特養の夜勤職員配置の要件緩和に使えるようになった。制度が介護ロボットの効果を認めた最初の瞬間だと、先進法人の善光会は位置づけています[9]。

2024年度には、機器の導入・委員会の運営・効果データの提出をセットで求める加算も新設された[10]。国の設計は「買って終わり」を認めない方向へ動いている。

それでも「証明された」とは言えない

ここからが、この記事でいちばん書きたかった部分です。

夜間のデジタル見守りを調べた国際的な系統的レビュー(2021年)は、2005〜2020年の744件から基準を満たす研究を探して、5件しか残らなかったと報告した。しかも事故や職員負担は通常のケアと有意差なし。結論は「利益を示すエビデンスは乏しい」[11]。

高齢者ケアへのAI介入全般を見たレビュー(2022年)でも、31研究の効果は「まちまち」で、どの研究もバイアスの危険が高いとされた[12]。

厚労省の実証では効果が出て、国際レビューでは証明不十分。

矛盾しているようで、していないと思う。厚労省の数字は前後比較や小規模の試算で、学術的な対照研究の水準にはまだ届いていない、というだけの話だ。

では、証明が固まるまで待つべきなのか。

現場の人手は、その間も減っていく。「効果はありそうだが、証明はこれから」という中間地点に立って、機器ごと・目的ごとに判断していくしかない気がします。

AIが担わないもの

線引きの話をします。

ケアプランの下書きをAIが提案する製品は、すでにある[13]。その精度も高く、評価も高い。

ケアマネジャーによるAIの活用次第で、アウトプットの質が変わる。

AIを活用できる人と、活用できない人がいるし、今後もこの差が大きくなると私は考えている。

これは介護業界に限らず、上手くAIを活用できる人は生産性も上がることは明白です。

それでも、介護現場では、延命治療や身体拘束のような価値判断。利用者との関係づくり。

ここがAIの守備範囲の外にあることは、明白であり、論文においても推進派と慎重派の間でも一致しています[12]。

監視の問題も残る。センサーやカメラで暮らしを常時見守ることは、利用者の尊厳と同意の問題を伴う。3Dセンサーの「Neos+Care」が映像をあえてシルエット表示にしているのは、この緊張への一つの答えだと思う[15]。

どこまでが見守りで、どこからが監視か。その線を引くのは機器の仕様というより日々の運用で、ここも人の仕事です。

もう一つ、見落とされがちな壁がある。

厚労省の報告書に、こんな趣旨の現場コメントが載っていた。記録の時間が減って手が空いても、利用者と何をしていいかわからない状態になりうる、と[4]。

機器を買えば時間が浮いて、浮いた時間が自動でケアになる。そうはならないらしい。

浮いた時間を誰に何に使うかまで決めて、はじめて効果が形になる。効果は機器そのものより、業務の組み替えに宿るのだと思います。

記事の画像

未来の話を、等身大でする

2050年に向けて、眠っている人を安全に横向きにする動作をこなすヒューマノイドの研究が日本で進んでいる[18]。2025年にはラボでの実演までこぎつけていて、映像には正直、驚いた。とはいえ、これはまだ実験室の中の話だ。

近い未来に現場へ来るのは、たぶん派手なロボットより、記録と見守りの続きだ。

話し相手になるロボットが高齢者の孤独感を減らすという報告も出はじめている(9研究中6研究で有意な減少)。ただし、うつ症状の改善までは示せていない[19]。何に効いて何に効かないか、線引きはここでも必要です。

記事の画像

夜の見回りから考える

病院や施設において、AIはこれから、記録や巡視のような反復する仕事をゆっくり引き受けていく。

アセスメントと、価値判断と、関係づくりは残る。むしろ、そこだけが人の仕事として濃くなっていく。

AI、IT、ロボット、IoTと言っても、現場で使われ標準的になっていくのは、まだ先のように思える。しかし、確実に来るとも言える。まだまだ研究結果では追いついていないが、商品・サービスレベルではAIは身近にあると思う。

どう活用したら最適か、これはまだ分からない。模索しながらやっていき現場にあった形を作っていくしかない。ただ研究結果から言えることは参考になるかもしれない。

現場に問われるのは、浮いた時間で誰の隣に座るか。

深夜2時の廊下で、開けなくてよくなったドアの前をそっと通り過ぎる。

その静けさの分だけ、朝の申し送りや会話が少し増える。

介護とAIの未来像は、案外そういう地味な景色なんだと思います。

もし、介護の現場でAIを活用したいと検討している方は一度ご相談ください

参考

[1] 令和6年度 介護労働実態調査 結果(介護労働安定センター、2025)

https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf

[2] 第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について(厚生労働省、2024)

https://www.mhlw.go.jp/content/12004000/001274765.pdf

[3] ハナスト 公式サイト(ケアコネクトジャパン)。「1日40分削減」はエクサウィザーズ実施のユーザー調査

https://hanasuto.carekarte.jp/

[4] 介護テクノロジー等による生産性向上の取組に関する調査及び効果測定事業 報告書(厚生労働省、令和8年3月)

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001690571.pdf

[5] 眠りSCAN 導入事例・特別養護老人ホーム グリーンヒル(パラマウントベッド)

https://digitalwellbeing.paramount.co.jp/care/news/522/

[6] DFree 公式サイト(DFree株式会社)

https://dfree.biz/

[7] 福祉用具・住宅改修(厚生労働省)。排泄予測支援機器の特定福祉用具販売の制度

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html

[8] Hug L1-02 受注開始ニュース(株式会社FUJI、2026)。シリーズ累計約5,500台

https://hug.fuji.co.jp/news/548/

[9] 介護の生産性向上に係る政策動向と対応策(社会福祉法人善光会・宮本隆史氏、東京都会議資料、2024)

https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kourei/hoken/kakushin/06kakushin01.files/04_202404.pdf

[10] 生産性向上のための委員会と生産性向上推進体制加算 解説資料(介護労働安定センター)

https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/jigyo/suisintaiseikasan.pdf

[11] Richardson MX et al. Nocturnal digital surveillance in aged populations: a systematic review (BMC Health Services Research, 2021)

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34187472/

[12] Loveys K et al. Artificial intelligence for older people receiving long-term care: a systematic review (The Lancet Healthy Longevity, 2022)

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35515814/

[13] SOIN(そわん)公式サイト(シーディーアイ)

https://soin.tech/

[15] 予測型見守りシステム Neos+Care(ノーリツプレシジョン)

https://neoscare.noritsu-precision.com/

[18] ムーンショット型研究開発事業 目標3・菅野重樹PMプロジェクト(JST)。AIREC

https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal3/31_sugano.html

[19] AI Applications to Reduce Loneliness Among Older Adults: A Systematic Review (Healthcare, 2025)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11898439/